家族の絆を支える街の写真館  取材 : 成之坊 大輔

数々の思い出を刻んだ四半世紀
天井の高い撮影スタジオに足を踏み入れると、そこにはハッセルブラッドのカメラが並び、大きなトップライトが優しい光を灯していました。この空間で、四半世紀にわたって数え切れない家族がそれぞれの思い出を刻んできたのです。

そんな地域に根ざした写真館「夢スタジオ」を経営しているのが、出村まさとさん。師匠は、故・中西陽一石川県前知事の肖像写真などで有名なカリスマ写真家、吉川恍陽氏です。

師の写真館で、写真にまつわるあらゆることを覚えた出村さんは、「いまはもう願ってもあのような学びの場はありません」としみじみ。体に脈々と受け継がれた姿勢と技術が、デジタル時代のいま大いに生かされていると言います。

独立は二十五年前。以来、赤ちゃんのお宮参り、初誕生、七五三、ご入園、ご入学、成人式など、家族の節目をずっと撮影してきました。「人生の晴れ舞台に、写真を通じてちょっと幸せをプラスしていく。それがやりがいですね」と出村さん。

写真館を立ち上げて間もなく、その腕前は口コミで伝わっていきました。祖父母から息子や娘、さらには親戚へ...といった具合に、ファミリートゥリーのようにお客さんが広がっていったのです。

リピート率が高いのも特徴で、三十回も足を運んでくれたご家族も。赤ちゃんの時から撮影してきた子が成人式の撮影にやってきて、「こんなに大きくなったのか」と驚くこともしばしば。「だから私は、親戚のおじさんみたいな気持ちなんです」と微笑みます。
長年の撮影で培った本物を見る目
出村さんはキャリア三十年を超える写真のプロですが、撮影スタイルは自分の個性を押しつけるものではありません。「写真家の型にモデルをはめ込もうとしてもいい作品は撮れません。相手の立場になって被写体を受け入れ、どう個性を引き出すかが大事。自分のカラーを前面に出すのは卒業しました」と語ります。

また、出村さんの写真は自然な輝きを放っていると評判。それについては、「モデルの何がいまの特徴かを捉えなくてはいけない。反抗期の中学生に『笑って』と強要しても無理。その時々の個性を生かした魅力を捉えないと」。これは、熟練した料理人が、旬の食材を最大限に生かした一品を作り上げることに似ているのかもしれません。

その上で、写真の重要な要素は"品"だと解説。「ライティングにしろ、ポージングにしろ、修整にしろ、そこに品があるかどうかが分かれ目」だと持論を展開。こういった境地は、経験がなければ悟ることができない世界。出村さんの元に、他で上手くいかなかった難しい撮影依頼が寄せられる理由が分かった気がしました。

そうやって長年、撮影してきたからこそ、本物を見極めることのできる出村さん。例えば、撮影で使用する振り袖についても同様。たくさん見て、触ってきたからこそ、衣装や着付けの良し悪しがすぐに分かるのだとか。

近年は、質の良くない着物を高額な値段で貸しているケースもあると言い、「業界の乱れは本当に残念」だと嘆きます。夢スタジオの振り袖は、京都から仕入れてきた上質なものばかり。自信を持って良心的な料金で提供していると力説していました。
アルバムに積み上げられた歴史が財産
お客さまの晴れ姿をずっと残せるのは写真。だからこそ衣装にこだわり、タッグを組んでいるメイクや着付けのスタッフも一流の面々です。夢スタジオは完全予約制。お客さまだけの特別な空間として対応しているからこそ満足度が違ってきます。

アンケート用紙には、「子どもの笑顔を本当に上手く引き出してくれた」「自分たちでは撮れない表情が撮影できた」「他で撮ったものに納得いかなくてここへ来たが、本当に満足できる写真が撮れた」といった喜びの声が並んでいました。

そんな夢スタジオは、2013年夏に大幅リニューアル。「もうここは僕のスタジオじゃない。いままで撮影に来てくださった人たちのもの」だと出村さん。これからは、お客さま一人ひとりの夢で彩られた建物として新たな歴史をスタートさせる予定です。

「私はいままで、この街のたくさんの家族写真を撮影してきました。お子さまが成長する姿を一緒に喜んで、その個性と、ご両親の愛情を写真に収めてきたのです。アルバムに積み上げられた歴史はかけがえのない財産。これからも、地域で暮らす人たちの歩みを知っている"街の語り部"として、家族の絆を支えていきたい」

大型店全盛のいま、街は次第に個性が失われています。そんな中で、イタリアの職人が家族でやっているような、こだわりの店舗が求められる時代。夢スタジオは、まさにそんな写真館なのだと実感させられました。

(取材年月:2013年1月)
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